迷える仔羊はパンがお好き?
  〜聖☆おにいさん ドリー夢小説


     



一応は都内じゃあるが 都心からはやや遠く、
歴史もあって古くからの情緒あふれる町並みが…とは言い兼ねるものの、
じゃあ交通の便もいい新興地かといや、さすがにそこまで目新しくもない。
駅前にはまだまだお元気な商店街がにぎやかで、
カラオケハウスもコンビニも漫喫もあるけど、銭湯も健在。
町外れの神社では毎年鎮守のお祭りもあって、
盆には町内会主催の盆踊りもそりゃあにぎやかに催される。
そんな立川という町のちょいと奥向き、
落ち着いた住宅街の外れにある小さなアパートの二階の角。
そこが、
二千年越しという長きに渡った天世界でのお務め、
それぞれの世界的宗教の開祖として、
死後まで人々を導くお立場を頑張った自分たちへのご褒美にと、
有給でバカンスを楽しもうと降りて来られた二人の“最聖人”たちの、
仮のお住まいであったりし。

それぞれの生涯をかけ、人々へ尊い教えを口説し、
且つ、
その敬虔で慈愛に満ちた生き方でも示したことから、
死後も なお慕われ尊ばれ、
その教えを遵守せんとする教徒が世界中に絶えない二つの宗教。
そんな“最聖人”たちの片や、
ややまとまりの悪い深色の髪を肩より長く延ばしての、
額を巡る 茨の冠というアクセントでまとめておいでの、
やや着痩せして見える体躯をした男性の方が、
神の子ヨシュア、もしくはイエス様といい。
もう片やは、
宗派にもよるが おおよそは煩悩の数の108に分けたその上で、
神通力で髪をぎゅうとまとめた“らはつ”という珍しくも尊い頭に、
柔和な面差しの額の中央には、ホクロに見えるがこちらも髪の白毫。
丸みのある肩や頼もしき背中をなされし、豊かな福耳の男性の方が、
王子として生まれながら、悟りに目覚めた人、
釈迦如来、もしくはブッダ様という。
苛酷な生涯を通して人々を救い、また教えの道を示された、
どちら様もそれはそれは尊い御身の存在であり。
とはいえ、
あくまでもお忍びでの降臨ということで、
身分を秘しておいでなのは元より、混乱が生じぬようにと、
様々な奇跡を起こさしむるお力も、
出来れば発揮なされぬようにと心掛けておいでの上で。
日頃のお姿の見た目年齢がまま近い、
地上の30代の日本人男性に言動も合わせたそのまま、
ごくごく平凡な暮らしようを貫いておいで。


 なので、ここからは
 地の文章も肩の張らない描写とさせていただきますが、
 どうか、非礼よ不遜よとお怒りになりませぬよう、
 どちら様もどうかよろしくお願い致します。





日本という国には、
その位置取りの妙から“四季”という季節の巡りが 風とともに毎年訪れる。
なにぶん細長い国なので、
最北や最南とまで端になると、
氷雪の季節が 年の三分の一もあったり、
逆に雪が降るところなんて見たことないという人もいたりという
極端な偏りはままあるが。
それでも、春には春の風が吹き、夏には夏の風が香って、
四季それぞれに趣きある風情が織り成される、
それは情緒の豊かな国とされ。
長い冬が去れば、桜が咲き乱れる春が来て。
それが凄絶に散りゆけば、青葉がいっせいに萌え始め。
時折 強い風や青い嵐を受けながら、
その緑を徐々に濃くしてゆく初夏を経て、
今はこの国の雨季、梅雨という季節に入ったところ。

 “梅雨、ねぇ…。”

この長雨の時期は夏がくる前に訪れて、
太平洋に勢力を張る高気圧の威勢が安定し、
押し出されるまで停滞する前線の活動により、
そりゃあ長々と雨天や曇天が続く…そうなのだが。
そんな理屈も近年は、少しずつリズムを崩しつつあるようで。
何でもインド地方の前倒しの熱波が原因で、
“梅雨の”と認定された前線が なかなか上がって来ないものだから
もう真夏かというような炎天が続いたり。
はたまた、早生まれの台風に叩かれて、
樹上にたまった滴がどっと落ちてくるかのごとくに、
並々ならぬ大雨風が遅い来たりと。
かつての風情ある梅雨を知っている人らが、
大嘘やはったりを紡いでいるんじゃあ?と誤解されそうなほど、
何とも珍妙なそれへ様相を変えつつあって。
今年のそれも、
早めの猛暑日が訪のうたほどの初夏を湿らせた雨の到来に、
やあやっと梅雨ですよと発表した気象関係者らを嘲笑するかのごとく。
再び、しかも延々と炎天が続いてしまい、
各地の貯水池は底を覗かせ始める危機まで囁かれて。
そうかと思えば、
やっと降った雨はきっかけの台風が湿気をどんどん供給したお陰様、
限度を知らない豪雨となり、
各地に被害を残し、散々な放埒のし放題。
これは大変なことが起こっているようだね、
もしかして もう台風とやらが闊歩する秋になってしまったんだろうかねなどと。
まだ少々この地に不慣れな二人して、
小さなテレビから得られる情報に、眉をひそめもしたのだけれど。

 「晴れたなぁー。」

今日は今日で、
そんな荒れ模様もどこの外国のお話か?と言わんばかりに、
打って変わっての上天気。
あちこちのお宅の塀の上やら、はたまた生け垣の代わりのように、
キョウチクトウの緑へ赤紫や白の花が鮮やかに顔を出し。
そうかと思や、収穫目的ではないものか、
淡い橙色の小粒の果実がちらほら覗くビワの木が、
丈夫そうな葉の濃色を光らせて繁茂しているお宅もあったりで。
アジサイの淡い瓊花も優しくて可憐だが、
夏の使者ですと言わんばかりの元気な木々の存在もまた、
まだまだ健在な豊かな情緒の一端を覗かせてくれているよで。
小さなアパートの畳敷きの小部屋、
その窓辺に陣取って、父の作った世界を眺めるイエスの目には、
やんぬるかな無機物や石の方が多い風景の中にも、
そういった健気な息吹があるのが擽ったくてたまらなく。
いい風が入るのへ気を良くし、
その場へ ぺたりと座り込んだままでいたのだが。


 “……あの子、まだいる。”


松田という老女が経営管理するこのアパートの前には、
駅から住宅街まで連なる小道があって。
一応は舗装されているけれど、
そうそう毎日、一日中の交通量があるでもなく。
ほとんどが徒歩での行き来に使われているような、
まさに“小道”なのだけれど。
その道の、こちらからすれば向こう側の路端。
形ばかりの車止めか、若しくは歩道との仕切りという意味合いにか、
側溝へと埋めて使うようなU字型のコンクリの溝資材を逆さまに伏せて置かれた縁石へ、
一人の少女が腰掛けておいで。
2階から見下ろす格好だし、真下というほど至近でもなくて、
一度も上へと顔を上げないので、あまり良く良くは見えぬのだけれど。
ポロシャツタイプの半袖のトップスに、
タンガリーだろうかシンプルそうな素材の、
ややフレアの利いた長いめのスカートを合わせるという、
いかにも普段着といういで立ちで。
ちょっぴり甘い色合いの髪は だが、
今時の日本の十代の子ならば誰も彼もがそんな髪色だから、
特に珍しいそれでもない。
ただ、やはりあんまり洒落っ気はなくの、
単色のヘアゴムで束ねられているだけという扱いであり。
座ったその膝の上へ、
中身はそれほど詰まっていないか、
くしゃっとした結構 使い込まれたトートバッグを抱えており。

 “…待ち合わせ、じゃあないみたいだよねぇ。”

だって、それなら
相手が来るのを待ってのこと、道の左右を見回してもいいはずだし、
待ち合わせた時間、間違ってないよねと時計や携帯を見もするもんだろに。
そういった所作や態度を一切見せないまま、
ただただじっと、縁石の上へ座り込んでいるばかり。

 “ブッダが出掛けたときから居たのかなぁ。”

同居しているもう一人、
それは器用で、おまけに倹約の達人でもあることから、
炊事をほとんど自主的に受け持ってくれているブッダが、
今日は お一人様限定…とかいうセール品のある日でも無しと、
一人で買い物へ出たのが小一時間ほど前のこと。
その折は、イエスもPCでブログのコメントチェックなぞしていたものだから、
行ってらっしゃい、荷物が増えたら呼んでねと、
手こそ振ったが 外まで見ちゃあおらずであり。
犬の散歩という人も、近所の小中学生も、
通院がてらに自分の散歩という老人も通らずな中途半端な時間帯。
そんなせいもあってか、
じっと座り続ける彼女が何かしらの封になっていてのそれで、
その場の時間が止まっているかのようにも

 “…というのは、大袈裟かな。”

だって、さすがに時々は身動きもする。
時計も携帯も見ないし、道の左右を見渡しもしないが、
強いて言えば…真っ直ぐ前、正面のほうをじいっと見やっては、
はぁあと脱力気味に肩を落としているような。
それを時々繰り返している彼女らしくて、

 “このアパートを見てる、のかなぁ。”

まさかまさか、出待ちのファンとか?
立川に降臨したもうた神、もとえ、
ジョニデそっくりのイケメンの噂を聞いて、
一目なりとも見たいとやって来た…

 「……っ。////// いやいや、待て待て。」

勝手な妄想の突っ走りから舞い上がりかけたものの、
視野にブッダの弟分、
金色の仏像の Jr.の姿が入ったせいか、
ちょっと待てとの制止が珍しくも自主的にかかったイエスであり。

 “だとしても、
  ああまで“此処にいます”と
  判りやすいところに堂々と座っているだろか。”

もしもお忍びでの来日ならば、
正体がばれたとあっちゃあ公園や境内の鳩よろしく
人の気配を恐れてバッと飛び立ってってしまうのがオチ。
よって、
追っかけが来たと悟られては何にもならぬから、
物陰からこそりと眺めては“はう〜〜〜vv”と身もだえするのが
ファンならではな習わしであり。

 “あれでは、
  張り番中の刑事以下だな。”

いやさ、
此処に来てるぞ、判ってんのか?という威嚇も兼ねている、
取り立て屋の居座りのごとし。

 『…イエス、
  君 昨夜にでも何か妙なドラマとか見たのかい?』

セールスマンの訪問がおっかないとか言ってたし、
彼女もまた、もしかして宗教関係の来訪者かも知れぬというに。
その、
仔細まで行き届いた人間観察はどうしたことだと、
ブッダが呆れ半分 感心しそうな思考の展開を巡らせておれば、

 「…あ。」

これもまた、噂をすれば影というものか。
見下ろしていたその道の向こうから、見慣れた姿が現れる。
向こうの方こそ、窓辺に居続けのイエスを先に見つけておいでだろう、
買い物帰りのブッダ当人で。
肩から提げたトートバッグの上端から、万能ネギの長い袋詰めの端が覗いてる。
雨上がりなのに妙に蒸すから、今日はそうめんでも湯がこうかなんて、
そういや言ってたなぁと思い出しつつ、
だが、何とはなく“お帰り”の声を掛けそびれ、
視線だけで友の姿を追っておれば。

 「…。」

向こうも、さすがにこの状況に気づいてはいたのだろう。
まだ遠いのにこちらへうんと頷くと、そのまま自分の進行方向を見やる。

 《 あの子、まだ居たんだね。》

 《 あ、やっぱりブッダが出掛けたときも居たんだ。》

さすがにこんなシチュエーションでは声高に声を掛け合えず、
だがだが、彼らにはこういう奥の手が使える。
心のうちでのテレパシーによる会話でもって、
見知らぬ少女がずっとずっと居続けらしいことを確かめ合い、

 《 大丈夫かなぁ。
   まだそれほどの炎天でもないから、
   日射病ってのには襲われないだろうけど。》

それでも、このまま昼を過ぎてまで…となれば、
好天なのだ、気温も上がろうから帽子もかぶらぬお嬢さんでは熱射病にかかる恐れは大きいし、

 《 それに、
   何か心許ない様子だしね。》

そも、何でまた
こんな人通りのないところに初顔のお人がいるものか。
迷子かなぁ? いやいや小学生でもあるまいに。
道が分からぬなら番地を掲げたプレートを追えばよし、
若しくは、通りすがりの人に聞けばいいのであって。

 《 通りすがりの人…。》

左右を見回し、ついでに自分が来た道を振り返り。
向かう先をちょいと背伸びして見通してから、
ぎょっとして自分の顔を指さしたブッダだったのへ、

 《 行きも見たんだろ?》
 《 うん…。》
 《 じゃあ、頼られてあげなよ。》
 《 それは…そうだけど。》

ブッダもイエスも特に人見知りする性分ではない。
そんなでは そもそもの布教活動なぞ出来なかった筈だし、
……じゃあなくて。

 《 実はあんまり、
   此処いらのこと知らないのにかい?》

日本の情緒や風情を楽しみながら、
それもまたエキゾチックジャパンの一端であろう、
ご近所付き合いというものにも馴染みつつあるとはいえ。
此処に来たりてまだ2年目、
しかもその身の素性をさりげなく(?)伏せておいでの謎多き存在である自分たちだけに、
この手の人助けって出来るものかなぁと、そこはかとなく不安になったのも致し方なしかと。

 《 交番まで 送ってあげるとか。》

 《 わたしたちの身元を聞かれたら どうするの。》

このアパートの住人だってことは言えても、
それを確認されてのこと、松田さんに迷惑がかかるかも知れないし。

 《 何となったらこの声で言い含めるサ。》

 《 イエス、
   それだと私たち、明日からこの地にいられなくなるかもしれないよ?》

決して保身から言うのじゃあなく、
現代の奇跡だの超能力者現るだのという方向で大騒ぎになるかも知れぬと。
そっちの混乱を恐れてのこと、
ほんのちょっぴり後先考えないところの強い友へ、
言葉を尽くして言い諭そうとしかかったブッダだったけれど、

 「…えっ。」
 「あ…っ。」

そうこうという会話をもつ間にも、
イエスの視野の中、首を振らずとも双方が収まるところまで、
本人に至っては、
問題の彼女に声が届くほどの至近にまで辿り着いていたブッダの目の前で。
トートバッグに肘を預けるようにして座り込んでいた少女が、

  ふ…………っ、と

風に手折られた か弱き花だったかのように、
その身を前へと倒れ込ませての、
縁石から転げ落ちるようにして、
路上へと倒れ付してしまったのでありました。







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 *しまった、
  主人公さんの名前変換が ちいとも役に立ってない。(笑)

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